こないだの関西外遊では、南海電車に乗る機会が2回ほどありました。
個人的な見解ではありますが、「ラピート」 みたいな大胆な車両を輩出している鉄道ではあるけど、関西の大手私鉄にあって、妙な地味感が否めない南海電鉄。しかし、後々国有化されたのを除けば、現存最古の私鉄という歴史の古さもあって、それなりのネームバリューはあります。
そんな南海電鉄にあって、今、一際注目を集めつつある車両があります。それが画像の6000系。
東急7000系、京王3000系とともに日本初のオールステンレス車両という肩書きを持つ一方で、第一陣の登場から半世紀以上経った2019年現在、1両の廃車もないという現状が注目度をさらに高めています。東急7000系は改造車の7700形が昨年引退し、京王3000系は既に全廃されている点から (※) 、まさに奇跡としか言い様がないのですが、南海電鉄が2018年に打ち出した中長期計画でついに6000系の置き換えが具体化し、来年度には置き換え用の新型車両が登場することになっているとのこと。置き換えが本格化する前に、一度は見て、乗って、撮っておきたいものです (見たような気はする) 。
東急7000系と京王3000系はともに18m級の車体ですが、南海6000系は20m級で、試作形式のサロ153 900番代 (→サロ110 900番代) や試作要素の強い茨城交通ケハ600形気動車を除けば、日本初の量産型20m級ステンレス車体ということも特筆すべきことです。
一般的にステンレス鋼材を用いた鉄道車両には、台枠や骨組みで普通鋼を用いたセミステンレス (スキンステンレス) とその台枠や骨組みもステンレスにしたオールステンレスの2種類が存在しますが、南海6000系は後者になります。オールステンレスを語るにあたって、外せないのがアメリカのバッド (Budd) 社の存在。日本で初めてステンレス鋼材を用いて車体作りに挑んだ東急車輌製造 (→総合車両製作所) はこのバッド社の技術に着目し、1962年に同社と技術提携を結び、オールステンレス車体を製造することになりました。
一部で言われている 「6000系は南海初の高性能車」 という説は明らかな誤りであり、南海における高性能車の嚆矢は1954年に登場した11000系 (初代) です。
カルダン駆動方式を用いた11000系や21000系は優等列車用で、通勤用の車両に関しては1521系や2051系など、つりかけ駆動車が主流でした。そこで、通勤車に関してもカルダン駆動 (WN式) を採用することになりますが、これに前述のバッド社譲りのオールステンレス車体を架装することで、新型車両の骨格が具体化していきます。しかし、オールステンレス車体を採用するにあたって、避けて通れないのが台車でした。 「おそらく」 という仮定の説ですが、バッド社は 「台車もウチで開発したものを履かせなさい」 と言ったかどうかは定かではありませんが、自社が開発したディスクブレーキを備えた 「パイオニア台車 (パイオニアⅢ) 」 とセットでライセンス契約を結ばせたのではないでしょうか? そういえば、東急7000系も京王3000系もパイオニアⅢを履いていましたしね。
パイオニアⅢは、オールステンレス車体の軽量構造効果を高める必須アイテムと謳っていましたが、許容最高速度は100km/hでした。これを105km/hにしていた南海本線に投入するのは事実上不可能だったので、高野線に投入することになりました。
当時はまだ 「曲げ」 の技術が確立していなかったこともあって、6000系独特の丸みを帯びた前面形状はなかなか完成には至らなかったそうで、東急7000系はバッド社で製造していたアメリカ向けの車両をモデルとし、京王3000系は前面にFRPを採用するなど、三車三様だったりします。そういう意味で厳密に言えば 「京王3000系はオールステンレスじゃないんじゃい?」 と疑念を抱きたくなりますが、その 「曲げ」 の技術が確立してなかったことに起因する苦肉の策と言えるでしょうか。 「確か・・」 という前置詞が付きますが、東急7000系のモデルとなったアメリカ向けの車両は、フィラデルフィアの地下鉄車両じゃなかったかと記憶しています。映画 「ロッキー」 にも要所要所で登場していますが、あれじゃないかと思われます。
1962年12月に、モハ6001-サハ6801-モハ6002の3両が落成しまして、計画通り、高野線に投入されます。
主電動機は三菱電機製MB-3072-A型です。当時、高野線の架線電圧は600Vで、1973年の1500V昇圧時にそれ対応のMB-3072-B型に換装しました。なお、1965年に製造された4次車以降はどちらにでも対応出来る複電圧仕様になっていて、主電動機も最初からB型を搭載しています。
駆動装置は前述のようにWN社製のカルダン駆動で、85:16という歯車比は以降の南海通勤車両の標準値になります。
制御装置は超多段バーニア制御の日立製VMC-LTB-20A型で、高野線らしく、加速性能をアップさせた仕様になっています。
ブレーキは発電ブレーキ併用の電磁直通空気ブレーキ (HSC-D) を採用し、また台車の外側に付いているディスクブレーキ (ローターとキャリパー) が特徴です。高野線用なので、抑速ブレーキも備えているのかと思いきや、勾配区間を抱える橋本以南では使われないみたいです。だから、抑速ブレーキは不要なのかもしれません。
車内レイアウトは通勤形らしく、至ってシンプルな構造になっていますが、乗降用ドアは片開き式。これは現行の南海通勤車両では唯一の存在です。
登場時は3両編成でしたが、1964年に増備されたグループからクハ6801形が新たに起こされるようになり、モハ6001-モハ6001-クハ6901という布陣になりました。さらに、1966年製造のグループからは、高野線沿線の宅地化が進んで輸送力の状況が求められるようになり、4両編成となりました (モハ6001-クハ6901-サハ6801-モハ6001) 。
6000系の最終増備は1969年で、これは最後まで3両で残っていた初期ロットのグループを4両化するため、サハ6901を3両製造して編成に組み込みました。これで全72両が出揃い、6000系は製造が打ち切られて、その後の増備は改良型の6100系に委ねられることになります。
高野線沿線のベッドタウン化はさらに進捗し、代表的なエリアに泉北ニュータウンがありますが、沿線の足として泉北高速鉄道 (当時は大阪府都市開発) が1971年に開業して南海高野線に乗り入れるようになると、さらに高野線の混雑度は増すことになります。そこで4両から6両、そして8両へと編成数を増やしていき、1981年からは10両編成も登場しています。今でこそ、阪急神戸本線、阪神なんば線、そして大阪メトロ御堂筋線とかで10両編成は見られますが、この当時としては、関西の大手私鉄では珍しい存在だったと言えます。
1980年代に入って、さしもの6000系も老朽化が目立つようになりますが、廃車にするのではなくてリニューアル工事を施すことによって対処することになりました。
このリニューアル工事で一番目玉になったのが、冷房化ではないでしょうか。
長らく、非冷房のままでいた6000系ですが、周囲の車両が続々と冷房化される中で、利用客からも 「何とかせい」 という声が強まったのでしょう。1985年から冷房化工事が開始されました。同時に電動発電機 (TDK-3345-A型) も併せて搭載しました。また、冷房化に伴う重量増の関係で、軽量構造だったパイオニア台車では支えきれなくなることを懸念して、S型ミンデン台車 (電動車はFS-392C型、制御車と付随車はFS-092A型) に履き替えました。その他、パンタグラフを菱型から下枠交差型 (PT-4803-A-M型) に交換しています。行く先方向幕の設置は1980年代の前半に行われていました。
1994年の関西空港開港を機に、南海のイメージを変えるべく、その2年前から車体の外板塗色を変更することになりました。このうち、ステンレス車体の車両については、車体に青とオレンジのストライプを施すだけのシンプルなデザインになりましたが、イメージはガラリと変わっています。
同一車体ながら鋼製車体を採用した7000系は、塩害の関係で既に全廃されていますが、6000系は前述のように1両も欠けることなく、特に第一編成 (モハ6001-サハ6601 (旧サハ6801) -モハ6002) の3両は、誕生から四捨五入すれば60年という大長寿車両になります。勿論、JRの蒸気機関車や阪堺電気軌道のモ161形など、長命な現役車両もありますけど、国鉄・JRも含めてもこれだけ長命且つ今もなお現役、さらに同一線区一筋で転属なし、優等列車にも使われ、とどめはまだ主力 (準主力?) である通勤形車両は見当たりません。このことを鑑みれば、まさにギネスブック級ではないかと思います。いや、申請しても良いと思いますよ。それだけに、阪和線一筋だったクハ103-115と116はホントに惜しいことをしたと悔やまれます。
置き換えは来年度からだと言われていますが、是非、引退→廃車→解体にするのではなくて、保存を前提とした措置を南海電鉄は考えるべきだと思いますね。
あっ、そうそう。先述のJRクハ103-115、116と阪堺電軌モ161、そして南海6000系。共通していることがありますね。それは半ばズレているけど、 「皆、大阪泉南地方の車両」だということ。長寿車両には不思議な接点というか、縁がありました。
【画像提供】
岩堀春男先生
【参考文献・引用】
鉄道ファン No.695 (交友社 刊)
ウィキペディア (南海電気鉄道6000系電車、ステンレス車両、バッド社など)