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Channel: Club SKRAM ~もはねの小部屋~
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「列車に乗ったら、そこは伊豆」

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バブル経済の真っ只中、日本は勿論のことですが、伊豆半島も潤っていました。きっかけになったと言っても過言で無いのが1985年に登場した、伊豆急行の看板列車 「リゾート21」 だったわけですが、度重なって起こっていた伊豆地震の影響で客足が遠のいていた伊豆半島。しかし、伊豆急 「リゾート21」 の登場は、瀕死の状態にあった伊豆半島を救った救世主でもあり、後々巻き起こる 「伊豆リゾートブーム」 の火付け役にもなったのです。1981年に登場した 「踊り子」 も斬新なデザインとカラーリングで人気を博しており、団体臨時用車両を使った臨時の 「踊り子」 も軒並み運転されるようになっていました。こうなると駅からのアクセスもリゾート気分になり、伊豆半島をカバーする東海自動車 (東海バス) も既存の概念を打ち破ったメルヘンチックなバス (リンガーベル号) を登場させたりして、伊豆急沿線や東海バス沿線に雨後の竹の子のように出没したリゾート施設は満員御礼の状態が続いていました。

さて、 「リゾート21」 の登場で活気づく伊豆急に対して、国鉄・JRは前述のように定期の 「踊り子」 の他に臨時の 「踊り子」 を総動員して対応しますが、 「リゾート21」 のようなインパクトのある車両があるわけでもなく、団体臨時用車両を使っているとはいっても、特急だし、全車グリーン車扱いだし、毎日運転しているわけではないし、加えて定期列車に使われている185系電車も普通車両はリクライニングしないし、見てくれの斬新さとは裏腹に、時間が経つと飽きられてきました。そこでJR東日本は、 「リゾート21」 に負けないインパクトのある 「踊り子」 専用車両を造ろうとプロジェクトが立ち上げられ、移動空間そのものを楽しむアミューズメント性を重視した車両の開発が行われました。そして 「列車に乗った時から、そこは伊豆」をコンセプトに、エクステリアやインテリアともに185系を上回る車両が登場しました。それが251系です。

プロジェクトの立ち上げは1988年から既に始まっていたのですが、冒頭にもお伝えしたように、時あたかも過去に例を見ない好景気。日本人全てが浮かれていたといっても過言では無いのですが、求めるニーズも中流志向から高級志向へと変わっていき、とにかく高級製品が飛ぶように売れた時代です。またせかせかと動き回っていた高度経済成長期とは違い、お金にも時間にも余裕が持てたことから、旅行にもお金をかけられるようになりました。出発地から旅行先の駅や空港までは駆け足で、そこからはゆっくり、ゆったりと寛ぐという傾向が顕著なスタイルになっていました。伊豆への旅行も熱海までは新幹線で行くのがお約束になっており、251系の開発に当たっては、まずそこを根本的に変えようというところから始まりました。東京駅や新宿駅、あるいは池袋駅から旅は既に始まっているんだと。移動そのものを楽しませる車内空間を作り上げる必要があり、そうなると、当然のことながら185系では役不足になります。そんな折、伊豆急では 「リゾート21」 が、伊豆へは行きませんが小田急の10000形 「HiSE」 が登場したのもその頃だし、先程来から 「団体臨時用車両」 という風に呼んでいる、 「ジョイフルトレイン」 ブームも同時進行していました。また、鉄道のライバルでもある観光バスは軒並みデラックス化が進み、ダブルデッカー (二階建てバス) やスーパーハイデッカー (超高床式バス) が時代の寵児となっていました。251系は、そんなブームに便乗した人気乗り物の 「いいとこ取り」 的な車両でもあります。即ち、ダブルデッカー有りぃの、ハイデッカー有りぃの、サロン有りぃのと、時代が求める全ての人気アイテムを盛り込んだ車両になりました。

中間車は全て高床式として、先頭車は二階建てとなりましたが、新幹線を除いたJR特急用車両としては初めての二階建てとなりました。伊豆急下田寄りの先頭車はグリーン車で1階席は4人用の個室になっています。東京寄りの先頭車は普通車ですが、家族や小規模の団体向けにパーティションで仕切られた半個室的な車両になっており、1階席はキッズルームになっています。1号車の車端部にはサービスカウンターが設けられていて、簡単な供食サービスがありました。
3~8号車は普通車で、転換クロスシートが備えられています。リクライニングはしませんが (更新工事でリクライニングするようになったんだっけ?) 、座り心地は185系以上。

主電動機は205系や211系などと同じ界磁添加励磁制御のMT61を採用していますが、251系用にディチューンされた専用のものを採用しており、勾配区間がある伊東線や伊豆急行線にも乗り入れられるように、抑速ブレーキも備えています。
二階建てや高床式を採用している兼ね合いで車体断面が大きくなり、これに伴って専有面積を小さくして客室スペースを拡大させる必要があることから、パンタグラフも小さくしなければならないので、JR東日本の在来線車両としては初めての下枠交差型パンタグラフ (PS27型) を採用しました。
登場当初の外板塗色は、どことなく、遠目で見れば、何となく、ちょっとだけ伊豆急の車両に似た水色を主体にした爽やか系になりました。今のカラーリングよりも好感が持てる色彩でした。

1990年4月28日、東京・池袋・新宿-伊豆急下田間でデビューした251系は、 「スーパービュー踊り子」 号と命名されました。東京と池袋と新宿から1往復ずつ、計3往復の 「スーパービュー踊り子」 が走り始めるのですが、画像はまさに1990年4月28日に撮影したものだそうです。即ち、 「スーパービュー踊り子」 のデビューランということになります。当初は水曜日が検査の関係で251系の “定休日” と定めていたことから、水曜日だけ185系でノーマルの 「踊り子」 として運転されていました。また、 「スーパービュー踊り子」 に限っては、あくまでも伊豆へのアクセスがメインなため、小田原や湯河原は通過していました。

JR東日本もある程度予想はしていたのでしょうけど、蓋を開けてみれ3往復の 「スーパービュー踊り子」 は連日満員御礼で、どの列車もプラチナチケット化しました。 「スーパービュー踊り子」 の登場でさらに伊豆半島は潤いを増していくのですが、これに触発されたのか、1988年から運行を開始していた伊豆急 「リゾート21」 を使用した臨時特急 「リゾート踊り子」 にも変化が生じます。それはグリーン車の連結。
伊豆急行といえば、私鉄唯一のグリーン車を連結して注目を集めていましたが、1986年11月に一旦グリーン車の連結は廃止されて、グリーン車両は普通車に格下げされていました。そんな折、100系に 「リゾート21」 の内装に準じた特別車両 「ロイヤルボックス」 が連結されて、これがグリーン車扱いとなったことから、2年振りに伊豆急車両にグリーン車が復活することになりました。これが後々社会現象となる 「ロイヤルボックス」 の元祖なんですが、 「スーパービュー踊り子」 登場に合わせて、 「リゾート21」 にも 「ロイヤルボックス」 が連結されることになったのですが、100系の 「ロイヤルボックス」 とは違い、アミューズメント性重視のスペシャルな車両になりました。トンネルに入ると光ファイバーを使って天井を星空に替える 「スターダストルーフ」 を採用して、こちらも大注目を集めることになります。

こうなると黙ってないのが東海バス。系列会社である小田急とJR東海と手を組み、新宿から沼津経由で西伊豆ルートを開拓します。これが20000形 「RSE」 と371系電車を使った 「あさぎり」 で、それまで御殿場止まりだった 「あさぎり」 を沼津まで延長し、沼津駅から東海バスの座席指定の 「スーパーロマンス」 号を運行、JR東日本、伊豆急行に真っ向から勝負を挑みました。一方、同じ伊豆ルートで 「踊り子」 を始めとして国鉄時代から数々の優等列車がが乗り入れていた伊豆箱根鉄道には 「スーパービュー踊り子」 は乗り入れず、特に変化の無いまま現在に至っています。伊豆長岡や修善寺、そして修善寺を介した中伊豆地区もまた、伊豆半島の大事な観光スポットではあるんですが、伊豆箱根鉄道は開拓に固執してなかったようです。

しかし、バブル経済が崩壊すると、押し寄せていた波がさっと引くように、伊豆の経済も大打撃を受け、各地にあったリゾート施設は軒並み撤退に追い込まれ、今もその痕跡 (廃墟同然の建物) が皮肉にも遺されています。伊豆急も東海バスも経営が思わしくなくなり、伊豆急は 「アルファ・リゾート21」 の新造以降、オールニューの新形車両の登場が無く、東海バスは分社化されて辛うじて生命線を保たせている状態。JRも185系と251系を騙し騙し使っている有様で、西伊豆ルートもいつの間にか開拓が頓挫して、 「あさぎり」 は再び御殿場止まりに戻り、JR東海371系も小田急20000形も引退して揃って富士急行に行きました。それだけ伊豆は今、瀕死の状態に陥っています。

185系も251系もリニューアル工事を実施していますが、同時期に登場したJR東日本の次世代特急車両は相次いで世代交代が進み、E351系 (スーパーあずさ) 、651系 (スーパーひたち) 、E653系 (フレッシュひたち) 、そして253系 (成田エクスプレス) は引退したり、間もなく引退したりで、他の線区に転配するべく改造工事を実施したりしました。その中で 「スーパーひたち」 に使われていた651系は伊豆に進出し、女性をターゲットにした和テイストの車両に改造されて 「IZU CRAILE」 として7月から小田原-伊豆急下田間で運行を開始しました。
他にも、普段は 「成田エクスプレス」 で活躍しているE259系を週末や祝祭日だけ伊豆にアルバイトに駆り出して、 「マリンエクスプレス踊り子」 として運転されていますが、185系は誕生から35年、251系は同26年と、それぞれ峠を越えた車両になりました。そろそろ後継の 「踊り子」 「スーパービュー踊り子」 専用車両の登場が待たれますが、前述のように、伊豆の経済はかなり深刻な状況です。パッと明るくなるような新形車両は果たして必要なのかどうなのか、それが問題です。

【画像提供】
岩堀春男先生
【参考文献・引用】
名列車列伝シリーズ 12 「特急踊り子&JR東日本の新型特急電車」 (イカロス出版社 刊)
鉄道ファン No.663 (交友社 刊)
ウィキペディア (251系電車、スーパービュー踊り子、あさぎり、東海自動車など)

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