EF58の若番機 (3号機) が牽引する荷物列車です。
「あぁっ! 電気機関車から煙が出ているっ! 火事だっ!」 と早とちりする事なかれ。確かに鉄道をよく知らない一般の方が、SLじゃないのに、機関車から煙が出ているというこの画像をご覧になったら、真っ先に 「火事じゃないの?」 と思うのではないでしょうか。でも、重ねて申しますに、決して火事ではないのでご安心を。
自走機能がない客車は、モーターやディーゼルエンジンを持たないので、静寂性が優れているのがメリット。でも、自らサービス用の電源を持たない分、困るのが空調。夏場は窓を全開にすれば、自然の風が車内に入り込んでくるので何とか凌げますが (旧形客車の場合は、窓もさることながら、ドアまで開けていました) 、冬場の車内はかなり厳しい寒さになるそうです。そこで、当然のことながら、暖房を点けることになるのですが、前述のように、客車はサービス用電源を持たない車両になりますので、その燃料を機関車に委ねることになります。
客車の暖房といえば、まず 「ダルマストーブ」 が思い浮かぶ方も少なくないかと思いますが、今でも津軽鉄道が冬季の観光客誘致を目的に 「ダルマストーブ列車」 を運行していますよね。鉄道開業時は足を温めるだけの湯たんぽが主流でした。しかし、湯たんぽは足を温めるだけしか効果が無く、且つ、熱によって火傷をしかねないことと、ダルマストーブですと、やはり火事が心配になってきます。そこで、蒸気機関車から発生する水蒸気の一部を減圧して、客車の暖房用に供給したのが蒸気暖房です。
幹線の電化が進むにつれて、牽引機関車が蒸機から電機に移行するようになりますが、蒸気機関車と違って、電気機関車には蒸気圧を発生させる機能がありませんので、冬季になると、機関車の次位に暖房車と呼ばれる小型のボイラー付き車両を連結して、そこを中継して客車に暖かい空気を送り込んでいましたが、機関車自らボイラーを搭載することによって、暖房車の連結を止めようということになりました。
こうして、小型のボイラーが開発され、昭和12年に登場したEF56形電気機関車に初めて、蒸気発生装置を搭載しました。
Steam Generator、略してSGと呼ばれるこの蒸気発生装置は、戦前はEF56の他にEF57にSGが搭載され、冬季における客車暖房の手助けをしていました。因みに暖房用の燃料は電気機関車の場合は重油で、ディーゼル機関車はディーゼルエンジンの燃料でもある軽油を使用していました。
戦後はEF58、EF61、ED76辺りにSGを搭載して、機関車から吹き出される水蒸気の煙が冬の風物詩になっていましたが、昭和30年代以降は、電気機関車に別途、暖房用の電源を装備して、ジャンパ栓を仲介して客車に電力を送り、客車内の座席に設置したヒーターを温める仕組みの電気暖房が主流となり、また、20系や14系などの寝台客車は、電源車なり自らディーゼル発電機を備えてサービス用の電源を確保したことによって、牽引する機関車を選ばなくなったため、SGを搭載した機関車は徐々に廃れていきました。なお、貨物列車は乗客を乗せる必要が無いため、暖房用ボイラーを搭載した機関車に拘ることはなく、車掌車はストーブを用いていたため、特に気にする必要はありません。
EF58は、EF18の項でも申したように、登場当初はデッキ付きの機関車で、客車暖房用のボイラーは搭載せず、客車列車を牽引する時は暖房車を次位に連結していました。昭和27年に製造されたグループは、新たにSGを搭載することになり、それに合わせた新設計のボディを纏っての登場となりました。デッキ付きの31両も後に流線形の新ボディに載せ替えまして、これらについてもSGが搭載されましたが、宇都宮運転所や高崎第二機関区、長岡運転所に配置されて東北本線や上越線で活躍するグループは、電気暖房 (EG) に改造されました。乗務員扉の横に付いている表示灯がその証しになります。
撮影は昭和54年とのことですが、当時の3号機は浜松機関区の所属。1号機や60号機、あるいはEF18などを配した名門機関区。私はSG搭載機から水蒸気が発せられているのを見たことが無いとおもっていたのですが、調べてみると、きちんとSG搭載機から水蒸気が上がっているのをしっかりと見ていました。EF58ではないのですが、機会があったら取り上げたいと思います。
【画像提供】
岩堀春夫先生
【参考文献】
機関車ハンドブック 「EF15×EF58 国鉄直流電機のスタンダード」 (イカロス出版社 刊)
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